ご相談ありがとうございます。
この1年間、息子さんの不登校について学び、専門家にも相談しながら、息子さんの気持ちやご自身の関わり方を考えてこられたのですね。それでも、登校できるようになった一方で親子の会話はほとんどなく、高額な課金も続いているとなれば、これからどう見守り、どこまで対応すればよいのか、不安や戸惑いを感じられるのも当然かと思います。
今回のご相談では、①息子さんは回復過程にあるのか、②親と話さないのはなぜか、③課金の問題にどう対応すればよいのか、という3つに分けて考えてみたいと思います。
① 登校できていることだけで、回復の程度は判断できません
9月から再び登校できていることは、息子さんにとって一つの大きな変化です。ただし、留年を避けるために登校せざるを得ない状況でもあるため、登校できていることが、そのまま心身の回復や登校への意欲を意味するとは限りません。
学校では友達や先生と普通に会話ができているとのことですので、少なくとも学校では周囲と関わる力を発揮できているようです。一方で、家庭ではほとんど会話がないとのことですから、家庭と学校とで、本人が感じている負担や過ごしやすさが異なる可能性も考えられます。また、学校で非常に頑張っているからこそ、家庭では素の自分のままでいられる、という可能性もあります。
不登校の背景としては、受験疲れや完璧主義、兄へのコンプレックスなどを考えていらっしゃるのですね。現時点では、そのどれが、あるいはすべてが原因、のように断定することはできませんが、複数の要因が複雑に絡み合うことが多いので、一つずつ時間をかけて紐解いていく必要があるかと思います。
扁桃体の過活動が落ち着き、前頭葉の働きが回復することで登校意欲が戻ってきているのではないか、というお考えについても、脳の働きだけから個人の回復段階を判断することは難しいものですので、同様に、脳の働きと併せて、心理社会的な側面もアプローチしていきたいところです。
ただ、アプローチするといっても、今は、登校できているかどうかだけでなく、睡眠や食事、疲労の程度、休日の過ごし方、好きなことを楽しめているか、自分で選択したり気持ちを切り替えたりする余裕があるかなど、生活全体の変化を見ていくことが大切です。
② 親と話さないのは、課金への後ろめたさからでしょうか
課金への後ろめたさが、親御さんとの会話を避ける理由の一つになっている可能性はあります。ただ、それだけが理由とは限りません。
親に心配をかけたくない、自分のことを説明したくない、何かを言うと登校や将来について話し合うことになりそうで負担に感じる、あるいは、これまでの家族関係の中で改まって自分の気持ちを言葉にしにくくなっているなど、さまざまな可能性が考えられます。
親御さんが本人の判断を尊重しようとされていることは、大切な姿勢だと思います。ただ、親御さんが「本人に任せている」と考えていても、本人は、親からどのように見られているか、何を期待されているかを気にしていることもあります。
そのため、今は無理に話をさせたり、沈黙の理由を突き止めようとしたりするよりも、本人が話したくなったときに話せる関係を保つことが大切です。
例えば、登校できた日も、課金が発覚したときも、すぐに評価や説教、解決策の提示につなげるのではなく、まずは本人の様子を見守ること。そして、話しかけたときに返事がなくても、必要以上に追及せず、日常の挨拶や食事など、負担の少ないやり取りを続けていくことです。
ただし、会話がないことを、必ずしも「自己防衛として必要な状態だから、そっとしておけばよい」と捉える必要もありません。本人の気持ちは本人にしかわからない部分があるため、理由を一つに決めず、関係が変化する可能性を残しておくことが大切です。
③ 不登校と課金の問題は、分けて考える必要があります
今回、特に気になるのは、高額なゲーム課金が続いていることです。
登校のストレスを和らげるためなのか、親御さんへの反発なのかという点は、現時点ではわかりません。ゲームが気持ちを落ち着かせる手段になっている可能性もありますが、課金の理由を不登校と直接結びつけることはできません。
また、高額な課金があるからといって、直ちに依存症と判断できるわけでもありません。ただし、毎月10万円程度の課金や、携帯電話を通じた50万円の使い込みがあるのであれば、本人の意思に任せて様子を見るだけではなく、具体的な対応が必要な状況です。
ここで大切なのは、息子さんの気持ちを尊重することと、金銭的な問題を放置することは別だという点です。
アドラー心理学の「課題の分離」は、本人の人生や選択を親がすべてコントロールしようとしないための考え方です。一方で、未成年の子どもの安全や生活、家庭のお金を守ることは、保護者として対応してよい領域です。
例えば、次のような対応が考えられます。
・携帯電話やゲームの決済履歴を確認し、どのサービスで、どの程度の支出が生じているのかを把握する。
・キャリア決済やクレジットカードなど、保護者が管理できる決済手段について、利用制限や上限設定を行う。
・課金について話す際は、本人を責めたり、課金の理由を問い詰めたりするのではなく、「あなたを責めたいわけではないけれど、この金額を使い続けることはできないので、これ以上大きな支出が生じないようにするね」と、家庭としての方針を具体的に伝える。
・すでに生じた支出については、事実関係を整理し、返金の可能性も含めて決済事業者やプラットフォームに相談する。
ゲームや買い物への支出が、生活や学業、対人関係にどのような影響を与えているのか、本人が支出を自分でコントロールできているのかも、今後確認していきたい点です。必要に応じて、ゲーム行動や金銭管理の問題について相談できる精神科・心療内科などの専門機関につながることも検討してよいと思います。
④ 親御さん自身も、支援を受けてよい状況です
これまで精神科医やカウンセラーに相談してきたにもかかわらず、全体を整理して話してもらえなかったと感じていらっしゃるのですね。
不登校、親子関係、進路、ゲーム課金という複数の問題が重なっているため、一つの側面だけを扱う相談では、見通しが持ちにくかったのかもしれません。
今後は、息子さん本人の相談先を確保することに加えて、親御さん自身が継続的に相談できる場を持つことも大切です。本人が相談を希望していなくても、保護者だけで相談することはできます。
相談先を選ぶ際には、不登校だけでなく、思春期の親子関係やゲーム・金銭管理の問題も含めて整理し、必要に応じて医療機関や学校と連携できる専門家を探すとよいでしょう。現在関わっている専門家がいる場合には、これまでの経過を共有し、支援全体の見立てや今後の方針を一緒に整理してもらえないか、改めて相談する方法もあります。
最後に、息子さんが回復過程にあるのか、悪化しているのかというご質問について、今ある情報だけで明確に判断することはできません。
ただ、登校できていることと、課金や親子関係の問題が解決していることは別です。登校が続いていても、本人に大きな負担がかかっている可能性はありますし、家庭で会話が少なくても、本人なりに学校生活を維持しようとしている可能性もあります。
今は、登校できていることを回復の一つの変化として受け止めながら、本人の心身の状態を丁寧に見守ること。そして、課金については、本人の気持ちを尊重しながらも、家庭として必要な境界線を設けること。この二つを並行して進めていくことが大切だと思います。
息子さんのことを信じたい気持ちと、実際に起きている金銭的な問題から信用しきれない気持ち。その両方があるのは自然なことです。無理に信じようとする必要も、すべてを疑う必要もありません。今は、信頼を気持ちだけで取り戻そうとするのではなく、本人の尊厳を守りながら、具体的なルールや環境を整えていくことから始めてみてはいかがでしょうか。